福岡の姉妹都市、フランスはボルドーのワイナリーDomaine de Viaud の最新情報とぶどう摘み体験記。 著作権フリーの写真もあります。

本のタイトルが勇ましくても内容を読んでガッカリすることは少なくないが、この本はその反対である。
何気ないソフトなタイトルにもかかわらず、内容は極めてラディカルで、衝撃的でさえある。
この本は「狂牛病」の問題を論じ、「全頭検査緩和」がいかに愚かな選択であるかを論じているのだが、実は、さらに根本的で、重要な問題を提起している。
著者は分子生物学者で、この本でもたくさんのさまざまな実験を紹介しながら根拠を明らかにしていくのだが、その説明が素人の読者にも分かり易く工夫されている。
著者の考え方の基本にあるのは、1941年に43歳の若さで服毒自殺した亡命ユダヤ系アメリカ人のルドルフ・シェーンハイマーという生命科学者の「動的平衡」という考え方である。
《分子のレベル、原子のレベルでは、私たちの身体は数日間のうちに入れ換わっており、「実体」と呼べるものは何もない。そこにあるのは流れだけなのである。》
まるで『方丈記』の無常観や、仏教の世界観にも通じる驚くべき「発見」なのだ。
シェーンハイマーは、このことを実験によって発見するのだが、彼の名は科学史にも生物学の教科書にも登場しないのだそうだ。
人間の身体のすべての細胞が速いスピードで入れ換わっているとすれば、「脳の記憶」はなぜ残っていくのか、といった興味深い話題なども解き明かされていくのだが、それはご一読をお勧めするにとどめる。
福岡先生は重窒素をつかってネズミの代謝システムの流れを調べたシェーンハイマーの研究を紹介したあとに、こう書いている。
「外から来た重窒素は、ネズミの身体の中を通り過ぎていったのである。しかし、通り過ぎた、という表現は正確ではない。なぜなら、そこには物質が“通り過ぎる”べき入れ物があったわけではなく、ここで入れ物と呼んでいるもの自体を、“通り過ぎつつある”物質が一時、形づくっていたに過ぎないからである。つまりここにあるのは流れそのものでしかない。(…)肉体というものについて、感覚としては、外界と隔てられた個物としての実体があるように私たちは感じているが、分子のレベルでは、たまたまそこに密度が高まっている、分子の『淀み』でしかない。しかも、それは高速で入れ換わっている。この回転自体が『生きる』ということである」(61頁)
人間の自己同一性というのは自体的に存在するものではなく、ネットワークの「効果」であるということは、考えてみると、遠くヘーゲル=マルクスから、フッサール現象学でもラカン派精神分析でもレヴィナス倫理学でも、共通して説いていることである。脳科学で「クオリア」と呼ばれているものも、プラトンが「イデア」と名づけたものも、「コヒーレンス」という状態については同一のことを述べている。
分子生物学者である著者は、専門知識がない人たちが漠然と感じていることを、分かりやすく科学的に説明できる貴重な存在だ。本書の柱は、ノーベル賞級の理論を確立しながら、謎の自殺をとげ歴史に埋もれてしまったユダヤ人科学者ルドルフ・シェーンハイマーの再評価だ。
ナチスから米国へ逃れたシェーンハイマーは、食べ物の分子がまたたく間に身体の一部となり、次の瞬間には再び環境の中へ流れ出ることを分子レベルで証明した。本書は、命と環境は一連の存在だという、彼の哲学的な「動的平衡学説」をベースに、牛海綿状脳症(BSE=狂牛病)は「人災」だと展開する。
草食動物の牛を促成肥育するために、羊や牛の死体から作った高タンパク飼料を強制的に与えた。オイルショックを背景に燃料を節約するために、肉骨粉を低温処理するという人為を重ねた。
生命と環境、食と産業の関係を洞察できる密度の濃い内容なのに、週刊誌の記事のようなタイトルが付けられているのが少し残念だ。
タイトルは本書のテーマの一部に過ぎない。てっきりエリック・シュローサーみたいな米国の食(とその安全政策)の駄目さを批判することに主眼がある本かと思ったら,もっとずっと視野が広く,非常に示唆に富んだ内容だった。一読の価値はあると思う。ただ一方では,ある意味で物凄くナイーヴであり,プロパガンダ的であり,偏ってもいる(後で具体的に指摘する)。たぶん,こうやってストレートに主張したら,リスク論とは平行線で議論が噛みあわないし,リスク論なら考慮してくれる一般の人や政府関係者も,「そういう考え方もあるよね」と言って終わらせてしまうだろうと思われ,戦略的には失敗ではないかとも思われる。
思考をつかさどる脳細胞でさえ、数カ月すれば完全に置き換かわる、という。果たして、本物の『われ』はどこに存在するというのでしょうか。
ナチスから逃れてアメリカへ渡ったユダヤ人科学者・シェーンハイマーは、放射性同位元素で目印をつけたアミノ酸をネズミに食べさせる実験を行った。実験の結果は、食べたアミノ酸が、瞬く間に全身に散らばり、ありとあらゆる臓器や組織を構成するタンパク質の一部となり、ネズミの身体を構成していたタンパク質が3日間のうちに約半分という割合で食物由来のものによって置き換えられることを示した。生命を構成している分子は、「行く川のごとく流れの中にある」というわけである。さらに、この分子の流れは、流れながらも相互に関係性を保っているそうである。シェーンハイマーは、生命のこの在りようを「動的な平衡」と名づけたのである。
福岡教授はこの「ある意味では20世紀最大の科学発見と呼ぶことができる」シェーンハイマーの業績をこのように紹介した後、今日の生命工学に目を移す。そして、現在その発展を阻んでいる諸問題が、「技術レベルの過渡規性を意味しているのではなく、むしろ動的な平衡系としての生命を機械論的に操作するという営為自体の本質的な不可能性を証明しているように思えてならない」と結んでいる。

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たんぱく質でできている器官は日々、分子レベルに分解され、そこに食事で摂取したたんぱく質の分子が素早く置き換わる。ネズミでは3日で、身体のたんぱく質のほぼ半分が置き換わっている。
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